「復職しても、すぐにまた休んでしまう」。この悩みは貴社だけのものではありません。統計的にも再休職率は高く、その背景には厚生労働省の指針を現場レベルで運用しきれない「仕組みの欠如」があります。本記事では、公的指針を確実に実行し、再休職を防ぐための「戻れる組織づくり」について解説します。
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目次
データで見る現実:復職者の約50%が再休職するリスク

「復職後にまた休職してしまう」という現象は、決して珍しいことではありません。医学的な研究データや公的機関の調査を見ても、メンタルヘルス不調による休職後の「再発・再休職」は非常に高い確率で発生しており、企業にとって避けて通れない課題です。
5年以内に半数が再発するという統計
厚生労働省の労働安全衛生総合研究事業などの報告によると、メンタルヘルス不調で休職した労働者の約50%(47.1%)が復職後5年以内に再休職しているというデータがあります。 「本人の回復不足」だけでなく、一度離脱した社員がスムーズに戻れる環境が整っていない場合、どれだけ優秀な人材でも再定着は困難です。この事実は、個別の対症療法ではなく、組織的な対策が必要であることを示唆しています。
参考:厚生労働省科学研究費補助金 労働安全衛生総合研究事業「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」
厚生労働省「職場復帰支援の手引き」と現場のギャップ
再休職を防ぐための指針として、厚生労働省はガイドラインを公開していますが、現場ではその通りに運用できていない企業が多いのが実情です。厚生労働省のガイドラインでは、休職開始から復職後までの支援を以下の「5つのステップ」に分けて進めることを推奨しています。
【厚生労働省が推奨する職場復帰支援の5ステップ】
第1ステップ:休業開始及び休業中のケア(主治医との連携、情報の収集)
第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断(診断書の確認、本人の意思確認)
第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成(産業医面談、就業制限の検討)
第4ステップ:最終的な職場復帰の決定(就業場所・業務内容の最終決定)
第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ(プランの実施状況の確認、再発防止の観察)
しかし、なぜこの「正論」が現場では運用できないのでしょうか?このステップ自体は非常に合理的ですが、多くの企業では
①「いつ・誰が」やるべきか曖昧
②情報の断絶
③記録(証跡)が残らない
という観点から形骸化しており、ガイドラインがあっても、それを確実に実行するための仕組みがなければ、再休職を防ぐのは難しいのです。
参考:厚生労働省科「職場復帰支援の手引き」
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根本原因は「個人の資質」ではなく「組織の属人化」

上述した仕組みがない状況で、再休職の原因を「本人の甘え」や「忍耐力不足」といった個人の資質に求めがちな傾向がありますが、本来の要因は、休職者が心理的に不安定になりやすい状態であることを前提とした、休職・復職前後の「対応プロセスの設計不足」にあります。
つまり、対応が現場の判断に委ねられる「属人化」が起きていることこそが、再休職を招く真の要因なのです。
以下では、復職者が抱える心理的リスクと、それが「属人化」によってどのように誤解され、健全な環境構築を妨げるのかを解説します。
復職者の心理的リスク ①:焦りによる「見切り発車」
休職期間が長引くにつれ、従業員は「このままでは居場所がなくなる」「金銭的に苦しい」「キャリアが断絶してしまう」といった強い不安に襲われます。 この焦燥感から、実際にはまだ体調が万全ではないにもかかわらず、主治医や会社に対して「もう大丈夫です」「働けます」と、実態よりも良く申告してしまうケースが後を絶ちません。
主治医も、本人が強く復職を希望する場合、職場環境の詳細(業務負荷やストレス要因)まで把握しきれずに「復職可能」の診断書を出すことがあります。 会社側がこの「見切り発車」の申告を鵜呑みにし、「本人が大丈夫と言っているから」と受け入れてしまうと、復職直後の環境変化に耐えられず、短期間での再休職につながります。
復職者の心理的リスク ②:罪悪感からの「アクセル全開」
無事に復職できたとしても、多くの従業員は「長期間休んで迷惑をかけてしまった」「穴埋めをしてくれた同僚に申し訳ない」という強烈な罪悪感を抱えています。 この罪悪感を払拭し、自分の価値を再証明しようとするあまり、復職初日から「アクセル全開」で業務に取り組もうとする心理が働きます。
「遅れを取り戻さなければ」という責任感から、休憩を削ったり、自ら進んで残業を申し出たりすることもあります。 現場の上司がこれを「意欲がある」「回復した」と勘違いし、ブレーキをかけずに通常業務(あるいはそれ以上)を任せてしまうと、病み上がりの心身は摩耗し、燃え尽きるように再休職へと至ってしまいます。
復職者の心理的リスク ③:評価を気にした「SOSの封印」
復職後、実際に働き始めると「思ったより体が動かない」「集中力が続かない」といった不調を感じる場面は必ずあります。 しかし、復職者は「また調子が悪いと言えば、会社に見捨てられるのではないか」「『やはり使えない』とレッテルを貼られるのが怖い」という評価への恐怖心を抱いています。
その結果、小さな不調のサイン(SOS)を無意識に封印し、周囲には「順調です」と振る舞い続けてしまいます。 上司が「様子がおかしい」と気づいた時には、すでに本人は限界を超えており、突発的な欠勤や音信不通による再休職が発生する可能性があります。
人事労務担当者の「経験と勘」頼みが招く判断ミス
上述のような心身の状態を見抜く明確な基準がないまま、対応が人事労務担当者の「裁量」に委ねられているとどうなるでしょうか。 「本人がやる気だから任せよう」と安易に通常業務へ戻してしまったり、逆に過度な配慮で本人の自信を奪ったりといった判断ミスが発生します。これは人事担当者のスキル不足ではなく、客観的な判断となる「型」が存在しないことが原因です。
休職を繰り返さないための企業向けの対処方法

「復職者の心理的リスク」を理解した上で、企業はどのようにアプローチすべきなのでしょうか。個人の意思に任せず、組織として再発を防ぐための具体的な方法を紹介します。
「日常生活」と「就労」の乖離を埋める、三職種一体型の支援
主治医による「復職可」の診断書は、あくまで「日常生活が送れるレベル」の回復を指していることが少なくありません。また、復職者は「早く戻らなければ」という焦りから、診察の場で自身の状態を実態よりも良く見せてしまう(=過適応や症状の過小評価)という心理的リスクを常に抱えています。
こうしたリスクを前提に、復職の可否を一人の判断に依存させず、役割の異なる複数の視点を組み合わせた「客観的な仕組み」を構築することが不可欠です。
そこで重要となるのが、産業医と保健師の活用です。
- 産業医の視点:会社の業務内容や負荷を熟知した立場から、「通勤ラッシュに耐えうる体力があるか」「8時間のデスクワークを持続できる集中力があるか」といった、よりシビアな「就労可能性」の視点で適性を判断します。
- 保健師の視点:産業医や主治医よりも心理的な距離が近く、本人にとって相談しやすい存在です。日常的な面談を通じて、診察の場では取り繕ってしまうような微細な体調の変化や、本音に近い不安を汲み取ることができます。
このように、主治医・産業医・保健師がそれぞれの専門性から多層的にアプローチすることで、本人の心理的リスクに起因する判断ミスを防ぎ、再休職を防ぐための健全な復職判断が可能になります。
「慣らし勤務」と「業務制限」の強制的なルール化
復職者の「頑張りすぎてしまう」心理を制御するためには、本人の自主性に任せるのではなく、制度としてブレーキをかける必要があります。 「復職後〇ヶ月は残業禁止」「出張・接客業務の免除」といった就業制限を明確なルールとして設定し、上司や周囲にも周知徹底させることが重要です。また、最初は時短勤務から始め、段階的に負荷を上げていく「慣らし勤務」の計画を立て、本人が焦っても会社側が許可しない体制を作ることが、安全な定着への近道です。
見通し(プラン)の可視化で「安心」を与える
「いつまでこの制限が続くのか」「いつからフルタイムに戻れるのか」という見通しが立たないことは、復職者の不安を増幅させます。 企業は、復職から通常勤務に戻るまでのロードマップを作成し、本人とすり合わせしましょう。「会社は長い目で見てくれている」という安心感を与えることが、焦りによる無理を防ぎ、心理的な安全性を高めることにつながります。だからこそ「型」が必要なのです。
採用強化よりも重要?「見えないコスト」の深刻さ

ここまで見てきた復職支援の取り組みは、単なる一社員への個別対応にとどまらず、企業全体のコスト構造に直結します。多くの企業では、休職による欠員が出ると「新たな戦力を確保しよう」と採用活動に注力しがちですが、復職支援の体制が不十分なままでは、どれだけ採用を強化しても人員は安定しないのです。
再休職・離職の連鎖が生む「見えないコスト」
支援を軽視した結果として再休職や離職が繰り返される現場では、求人広告費や面接の手間といった「目に見えるコスト」以上に、以下のような「見えないコスト」が深刻なダメージを組織に与えています。
- 教育・習熟期間の損失:離職した社員が持っていたスキルや業務ノウハウ、それまでの育成投資の全喪失。
- 現場の生産性低下:欠員補充までの期間、周囲の社員に過度な負荷がかかることによる疲弊。
- 組織の士気低下:離職が続くことによる、既存社員のエンゲージメント減退。
上述したポイントを抑えて復職支援の「型」を作り、休職した社員の確実な再戦力化を図ることは、外部から新人を採用する以上の価値を持ちます。既存の人的資産を守り抜くこのプロセスこそが、企業にとって最も投資対効果(ROI)の高い施策となり得るのです。
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再休職防止は、最も合理的な「コスト削減戦略」
復職後の定着がうまくいかず離職に至ってしまった場合、代替人員の採用・教育コストが発生するだけでなく、退職してしまった社員の復職に向けた支援のコストも損失になることにもつながってきます。
これはまさに「穴の空いたバケツに水を注ぐ」状態です。 一方で、既存社員が定着すれば、埋め合わせのための採用コストはゼロで済み、早期に生産性が回復します。再休職防止は、単なる福利厚生ではなく、合理的な「コスト削減戦略」なのです。

組織全体の「心理的安全性」への影響
「もし自分の体調が悪くなっても、会社は守ってくれない」。再休職や離職が続くと、周囲の社員にこのような不安が広がります。 逆に、しっかりとした復職支援の仕組み(=戻れる組織)があることは、全社員への「安心の約束」となり、組織全体のエンゲージメントと生産性を向上させます。
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再発を防ぐ「一気通貫マネジメント」の型化

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。解決策は、休職発生から復職後のフォローまでを一貫したプロセスとして「型化」することにあります。
プロセスを「個人の裁量」から「組織の機能」へ
「誰が担当しても同じ対応ができる」状態を作るため、連絡手段、情報共有ルール、復職後の目標設定(慣らし勤務を含む復帰ロードマップ)などを標準化します。 例えば、復職後180日間の業務負荷を数値目標で設定するなど、ステップを明確にすることで、現場の迷いをなくし、再発リスクを最小化します。

公的指針をクリアする「記録管理」の徹底
面談記録や医師の意見書を時系列で集約・管理することは、厚生労働省のガイドラインに沿った対応を証明する上でも不可欠です。面談記録を保管することは法律で定められており、適切な記録(証跡)は、従業員を守るだけでなく、企業自身をコンプライアンスリスクから守る盾となります。万が一、法的紛争へと発展した場合、証跡がない企業は極めて不利な立場に立たされます。復職した社員から「無理な業務を命じられたせいで悪化した」と訴えられた際、具体的な業務制限の指示や面談の記録がなければ、企業が適切な配慮をしたことを証明できず、多額の損害賠償を命じられるリスクがあります 。
休職・復職支援を適切に行っている企業に対しては、障害者雇用安定助成金など職場定着や復職支援を対象とした公的支援制度を活用できる可能性がありますが、その申請には「いつ、誰が、どのような配慮を行ったか」を示す客観的な記録(証跡)が必須です。
参考:厚生労働省「職場復帰支援の手引き」
参考:厚生労働省「労働災害の発生と企業の責任について」
リスクを可視化する「休職・復職チェックリスト」再発を防ぐ「一気通貫マネジメント」の型化

厚生労働省の指針や法的な要求事項に対して、貴社の体制は十分でしょうか? 客観的に診断できるチェックリストを活用し、現状の「穴」を把握しましょう。やるべきことは分かっても、『現場の管理職がそれを守れるか』は別問題です。そこで役立つのが、属人化を防ぐためのチェックリストです。
簡易診断で「隠れたリスク」を発見する
「休職中の連絡窓口は一本化されているか」「復職可否の判断基準は文書化されているか」など、実務レベルのチェックリストで診断を行います。 もし一つでも「No」があれば、そこが再休職やトラブルの発生源になる可能性があります。
まとめ
「復職後にまた休職してしまう」という負の連鎖を断ち切るには、現場の努力や精神論ではなく、確実な「仕組み」が必要です。 表計算ソフトや紙での管理には限界があります。公的なガイドラインに準拠し、プロセスを自動化・標準化するシステムの導入も一つの解決策です。
下記よりダウンロードできる資料では、「人材投資の優先順位」を変えるべき根拠や、本記事で紹介した「休職管理・復職支援チェックリスト(簡易版)」を掲載しています。 「戻れる組織」への第一歩として、ぜひご活用ください。

