高齢化が進む今日において、介護と仕事の両立は誰にでも起こり得る身近な課題です。しかし、介護との両立支援制度の整備を十分に進められている企業は多くないのが現状です。今回は、介護と仕事の両立を取り巻く現状や背後にある問題、企業に求められる取り組みについて詳しく解説します。
Career&Kaigo(キャリア&カイゴ)は、仕事と介護を両立する従業員一人ひとりの状況に合わせた支援を提供するサービスです。介護の準備期から両立期まで、負担の可視化やeラーニングによる個別のサポートを切れ目なく実施。管理職や人事のマネジメント負荷軽減にも貢献します。
目次
介護と仕事の両立問題とは

はじめに、介護と仕事の両立を取り巻く問題について整理していきます。
介護と仕事の両立問題とは

介護と仕事の両立問題とは、家族などの介護を担いながら仕事を続けることが難しくなる問題です。要支援・要介護認定者数は年々増加傾向にあり、厚生労働省の「令和6年雇用動向調査結果の概要」によると、約9万人が「介護・看護」を理由に離職しています。
また、経済産業省の「経済産業省における介護分野の取組について」によると、仕事をしながら介護を担う「ビジネスケアラー」も、2030年には約318万人にのぼる見込みです。2035年には、育児や介護を担う従業員は1,285万人となり、働く人の約6人に1人が当事者になるという試算もあり、今後労働力の大幅な不足が予測されます。
介護が始まる時期は40代後半~50代が多く、管理職など組織の中心的役割を担う世代にあたります。キャリアの重要な局面と介護が重なりやすいことも特徴です。介護は突発的に始まり先行きが見えにくく、肉体的・精神的にも重い負担が続く中、十分な支援がないまま個人の努力に委ねられやすい点が課題といえます。
介護と仕事の両立ができないことで起こる問題

両立が困難になると、従業員は心身が疲弊し、「周りに迷惑をかけているのではないか」という強い不安を抱きます。
東京海上日動ベターライフサービス株式会社と株式会社アドバンテッジリスクマネジメントの共同調査によると、介護の先が見通せないことへのストレスを感じた人が81%にのぼり、そのうち約40%が転職または退職を検討した経験があります。「介護をやめる選択肢がない以上、仕事を諦めるしかない」と追い込まれ、離職に至るケースがあるのです。
この介護離職は、従業員のキャリア形成中断、収入減少、社会的孤立などの新たな問題を生じさせます。企業側にとっても、組織の中核を担う管理職層や専門人材の流出は人手不足や生産性低下に直結し、介護による労働生産性の損失は2030年に約9兆円に達すると推計されています。この問題は、当事者だけでなく企業の持続的成長にも深刻な影響を与えるものです。
参考:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
介護と仕事の両立問題の背景

「介護と仕事の両立」が1つの問題として提起される背景には、複数の要因があります。ここでは、両立を阻む主な背景を整理します。
両立支援制度が知られていない
両立支援制度は法的に整備されているものの、従業員への認知が不十分な場合が多いです。特に介護は開始時期が不明確なため、本人が制度の利用時期を認識できず、有給休暇等で対応するケースが少なくありません。
また、制度内容の複雑さや申請手続きの分かりにくさも活用を妨げる要因です。厚生労働省の調査では、介護離職者が「両立支援制度の個別周知」を求めており、制度が存在しているだけでは実効的な支援として機能していないことがうかがえます。
参考:厚生労働省「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集」
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介護の実態が見えにくく、職場で理解・相談しづらい
介護は、育児と異なり周囲から実態や負担の大きさが見えにくいという特徴があります。当事者はキャリアへの影響や周囲への迷惑を懸念し、相談のタイミングを逃したり、ためらったりしがちです。
企業側も、「介護と仕事の両立支援」の優先度が低い場合には、介護実態の把握や支援に関する情報発信が進まず、「両立支援が必要な従業員の存在」が可視化されづらいです。このような環境では、当事者が孤立してしまい、両立が難しいと気づいた時には、離職を検討せざるを得ない状況に追い込まれていることもあります。
「先が見えない」介護ならではのつらさがある
介護は食事・入浴介助だけでなく、サービス調整、通院の付き添い、意思決定など多岐にわたります。その状況は人により大きく異なり、要介護度の急な進行や10年以上の長期化など、先行きが不確実な点が精神的な大きな負担となります。
また、一度両立できていても状況に変化があると再調整が必須です。柔軟な働き方や相談体制が整っていないと、心身の不調や業務パフォーマンスの低下を招き、最終的に離職や生産性低下に直結するため、企業の支援が不可欠です。
国が企業に求める「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」の内容とは

ご紹介してきたように、介護と仕事の両立支援の取り組みは十分とはいえず、課題も少なくありません。そこで経済産業省は、介護との両立支援を後押しするため、経営者向けにガイドラインを策定しました。ここでは、その内容を簡単にご紹介します。
参考:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
「両立」の定義と経営層への問題提起
ガイドラインでは、介護と仕事の両立について以下のように定義しています。
家族の介護に対応しつつ、希望に応じた働き方を選択し、家庭生活とキャリア形成を両立し続けられること
少子高齢化が進む日本において、両立支援はすべての企業が想定すべき重要課題であり、単なる福利厚生ではなく、人的資本経営、人材確保、組織の持続性に直結します。そのため、経営層が主体的に関わり、企業が当事者意識を持つことが必須です。より充実した支援を実現するには、経営層のリーダーシップの下、各部門が連携して施策を推進していくことが求められています。
すべての企業に求められるアクションプラン
育児・介護休業法に基づき、介護休業や介護休暇などは、企業の制度として設けなければなりません。同法では、従業員の介護と仕事の両立を支えるため、企業に複数の義務を課しています。ガイドラインでは、法律で義務付けられた措置を講じることを前提に、企業に求めるアクションを3ステップで示しています。
①経営層のコミットメント
経営層がオーナーシップを持ち、介護と仕事の両立支援の必要性、重要性を理解するとともに、両立支援の方針を明確に示すことが、社内全体の意識改革の出発点となります。
②実態の把握と対応
従業員が介護と仕事の両立について、現在の状況や、どのような不安や課題を抱えているのかを把握します。
③情報発信
両立支援に関する情報を適切に提供し、従業員のリテラシーを高め、一人ひとりが状況に応じた支援を選択できるようにします。
これら3つのステップと考え方を踏まえて、具体的な取り組みを進めていきましょう。
企業が従業員の介護と仕事の両立を支援するメリット

企業が介護と仕事の両立を支援する主なメリットは以下の通りです。
人材流出の防止、企業価値の向上、採用力強化【企業視点】
介護と仕事の両立支援は、40〜50代の中核人材の介護離職を防ぎ、企業の競争力を維持するための重要な取り組みです。両立支援が不十分な場合、突然の離職や生産性低下により業績や経営目標の未達、さらには企業評価の低下を招くリスクがあります。
一方、制度や支援体制を整えることで、知識・ノウハウの流出を防ぎ、人材の定着率が向上すれば、安定的な事業継続が可能です。多様な人材が活躍できる環境は、「ダイバーシティを尊重する企業」として企業価値を高めます。企業イメージの向上は、採用市場での競争力を高め、優秀な人材の獲得を有利に進めることにもつながります。
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生産性の維持【現場視点】
介護と仕事の両立支援が機能していない場合、現場では業務遅延や生産性低下が生じる他、他の従業員への負担も大きくなります。特定の従業員に負担が集中すれば、ミスやトラブルが増え、取引先との関係悪化につながることもあるでしょう。
一方、両立を前提とした制度や相談体制が整っていれば、業務の見直しや役割分担が進み、現場全体の負担が最適化されます。生産性や品質を維持し、安定的に業務を進められます。
エンゲージメント向上、キャリア継続【従業員視点】
企業が介護という人生の重要な局面を積極的に支える姿勢は、従業員に大きな安心感を与えます。この安心感は企業への信頼や帰属意識を高め、エンゲージメントの向上につながります。安心して相談できる環境があることで、心身の不調や過度な負担を抱え込むことなく、キャリアを継続しやすくなるのです。
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企業が従業員の介護と仕事の両立を支援する取り組み方法

企業が介護と仕事の両立支援を行うための具体的な取り組みをご紹介します。
アンケートや面談などで従業員の状況を把握する
まずは、アンケートや個別のヒアリングを通じて、現在の介護の有無や将来的な不安、制度の認知度、働き方への影響などの実態を把握します。プライバシーに配慮した上で、各部署の管理職とも連携しながら、業務への影響などを掴んでおきましょう。これにより、制度設計や企業から従業員へ提供すべき情報の精度が高まります。
両立についてポジティブなメッセージを発信する
介護に関する悩みは、従業員が自ら打ち明けにくいテーマです。経営層や管理職は、日ごろから「介護は誰にでも起こり得る」「1人で抱え込む必要はない」と発信し、介護について相談しやすい空気をつくることが大切です。
介護の事実や制度の利用が、人事評価やキャリアの不利にならないことを明確に示し、不安を軽減します。早めの相談を促すことが、介護離職の防止につながります。
介護離職を防ぐための支援制度を周知する
介護は発生時期を予測しにくいため、介護が生じる前の段階から、必要な知識や選択肢を能動的に届けることが重要です。2024年の法改正により、早期の情報提供が義務化されたことも踏まえ、制度の存在だけでなく「どう使うか」までイメージできる周知が求められます。
法律に基づく支援制度の他、自社独自の制度、介護保険制度や地域の相談窓口などの情報を提供しましょう。育児・介護休業法における、従業員への支援制度は以下の通りです。
- 介護休業制度
- 介護休暇制度
- 介護短時間勤務等の制度
- 所定外労働の制限(残業免除)
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
- 所定労働時間の短縮等の措置
- 転勤に対する配慮
柔軟な働き方を選べる制度を整える
実態把握の結果を踏まえ、既存の制度が、現場で使いやすい形になっているかを見直します。休業・休暇制度や所定労働時間の短縮等の措置などは、育児・介護休業法における企業の義務です。法的義務に対応できているかだけでなく、手続きの分かりやすさや、従業員のニーズに合っているかも確認しましょう。
自社の実情を考慮しつつテレワークや時差勤務など、柔軟な働き方制度を導入する、あるいは既存の働き方制度を介護にも使える設計として整えることも有効です。
相談体制を構築する
介護と仕事の両立は個別性が高く、一律的なルールでは対応が難しいこともあります。また、介護による負担がメンタルヘルス不調を引き起こす可能性もあるでしょう。従業員が両立支援制度や働き方、介護の悩みや不安などを安心して相談できる窓口を社内外に設けましょう。外部の専門家や相談サービスと連携することで、支援の幅が広がります。
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制度への理解を深める研修を実施する
両立支援制度を機能させる上では、管理職や周囲の制度理解が欠かせません。管理職向けには、両立支援制度の趣旨や基本知識に、部下から相談を受けた際の対応ポイントを学ぶ研修を行います。併せて、一般従業員にも研修やeラーニングを通して理解を深めてもらい、制度利用を後押しする環境を整えます。
助成金を活用する
従業員の介護と仕事の両立を支援する取り組みを助成する、中小企業向けの制度があるので、活用することもおすすめです。助成金制度については後述します。
従業員が介護と仕事の両立を成功させるポイント

介護と仕事の両立を実現するため、従業員が心がけたいポイントは以下の通りです。このような従業員側の心構えも併せて周知しておけるとよいでしょう。
・制度とサービスについて知っておく
介護休業制度や介護保険サービスなど、負担を軽減する仕組みを早めに理解しておくことが、離職防止の第一歩となります。
・日ごろから周囲と情報共有する
家族の状況を上司や同僚に伝えておくことで、介護が必要となった際に協力を得やすくなり、心理的負担も軽減されます。
・介護に直面したら必ず会社に相談する
働き方の調整や制度活用には会社との対話が不可欠です。介護が発生した際にはすぐに相談し、今後の働き方について話し合いましょう。
・介護を抱え込みすぎない
介護サービスやケアマネージャーなど、専門家の手を借りて負担を減らし、自分の心身の健康を守ることが、長期的な両立を可能にします。
介護と仕事の両立を支援する「両立支援等助成金」

最後に、介護と仕事の両立を支援する中小企業が受けられる助成金についてチェックしておきましょう。
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両立支援等助成金とは
両立支援等助成金とは、仕事と育児・介護などを両立できる職場環境づくりを進める中小企業を支援する制度です。2025年現在6つのコースがあり、両立支援の取り組みを実施し、要件を満たした企業に助成金が支給されます。詳しくは厚生労働省の案内をご確認ください。
参考:2025(令和7)年度 両立支援等助成金のご案内
両立支援等助成金の種類と助成額
「介護離職防止支援コース」は、従業員の円滑な介護休業の取得、職場復帰を支援する取り組みや、両立支援制度の利用に対して支給される助成金です。
①介護休業(40万円)
介護休業の取得・職場復帰支援の方針の社内周知(*1)、介護支援プランの作成(*2)をした上で、従業員が連続5日以上の介護休業を取得、その後職場復帰した場合
②介護両立支援制度(制度を1つ導入:20万円、制度を2つ以上導入:25万円)
①の*1、*2を実施した上で、介護両立支援制度(※)を対象の従業員が一定基準以上利用し、支給申請日まで継続雇用した場合
(※)所定外労働の制限、時差出勤、深夜業の制限、短時間勤務、在宅勤務、フレックスタイム制度、法を上回る介護休暇、介護サービス費用補助
③業務代替支援(3~20万円)
- 連続5日以上の介護休業取得者の業務代替要員を新規雇用/派遣受入で確保した場合(20万円)
- 業務を代替した既存の従業員に手当等を支給した場合(介護休業代替者:5万円、短時間勤務代替者:3万円)
制度設計と継続的な支援で「介護と仕事」を両立

介護と仕事の両立を実現するには、支援制度を整備するだけでは不十分です。介護は、いつからいつまでという見通しが立ちづらく、状況を打ち明けにくかったり、「自分でなんとかすべき」と抱え込んでしまったりするケースもあります。実態把握や情報発信、相談体制の整備を通じて、従業員が安心して働き続けられる環境をつくり、介護と仕事の両立を支えましょう。

