メンタルヘルス対策としての職場改善とは?

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日本でストレスチェック制度がスタートして約3年。企業のメンタルヘルスに対する意識の高まりにより、近年は従業員個々のケアだけでなく、職場環境の改善に組織的に取り組む企業も増えています。

職場環境改善とは、職場において従業員のストレスとなるさまざまな要因を改善していく活動であり、国内外の研究により生産性向上との関連があることも明らかになっています。

一見難しそうな活動に感じますが、職場の状況を客観的に把握し、それぞれの要因に対して適切な対策を進めていくことで、職場環境は徐々に改善されていきます。本記事では職場環境改善の具体的な方法についてご紹介します。

職場環境改善とは何か?

メンタルヘルス対策における職場環境改善とは、従業員が健康的に働けるように、職場で従業員にかかっているストレス要因を把握し改善していく活動のことです。職場環境と定義される内容は幅広く、以下のようなものが含まれます。

・職場の温度、湿度、照明の明るさ、レイアウト
・長時間労働、過剰な業務量
・上司や同僚との人間関係
・仕事の進め方(裁量権の度合い)
・ハラスメントが起こりやすいカルチャー(風土)
・人事・労務管理体制、ほか

すべての要因を一挙に解決することは難しいですが、できることから着手することで、メンタルヘルス改善の効果が期待できます。

ストレスチェック制度の追跡調査でも、職場環境改善を経験した労働者の約6割が、ストレスを減らすのに「有用だった」と回答しています。従業員の実感レベルでも、効果を感じやすい活動だと言えるでしょう。

先に国内外の研究による生産性向上との関連について触れましたが、国内では職場環境改善にかけた経費・時間に対し、生産性の向上によって得られる利益は約2倍と見積もられています。職場環境改善の実施は、メンタルヘルスの改善のみならず、生産性の向上にも効果が期待できる取り組みなのです。

職場環境の把握と改善

職場環境改善は、まず現状の把握から始めます。ストレス要因にはいろいろな種類があるため、把握する方法も一つの方法ではなく、さまざまな角度から情報を集めリアルな状況を把握することが大切です。以下に把握方法の例を記載します。

具体的な把握方法

■職場巡視
事業所内の産業医、保健師などの産業保健スタッフが職場を巡視して、専門的な観点から職場の安全面、衛生環境面、社員の健康情報などを確認します。

■社内コミュニケーションからの情報収集
社員との何気ない会話から入手できるインフォーマルな情報も参考になります。例えば、オフィスが暑くて不快、お手洗いが少ない、オープンスペースがないため落ち着かない、などの小さな不満でも、多くの従業員が口に出す場合、その内容はかなりのストレス要因の可能性があります。

■時間外労働時間、健康診断、各種研究発表などの客観的データ収集
過労死ラインとされる残業時間は1カ月80時間ですが、業務の状況によっては80時間以下でも労災と認定されるケースがあります。近年は1日11時間を超える労働と中高年の心疾患との関係性なども研究発表されています。最新の研究データも参考にしながら、従業員の健康診断や残業時間のデータなどを収集し、健康リスクがありそうな職場を早期に把握します。

■ストレスチェック、その他調査(従業員意識調査、エンゲージメント調査、など)
例えば、ストレスチェックの結果を集団分析すると、全体及び職場ごとのストレスの状況がわかります。職業性ストレス簡易調査票に基づく「仕事のストレス判定図」を用いると、自社データと全国平均データとの比較もできます。自社のストレス状況の目安がわかってくるため、従業員や経営層から職場環境改善についての理解が得られやすくなります。

改善方法

収集した情報を分析し、具体的な施策を立てて行動に移していきます。

■組織分析(早期発見)
情報を総合的に分析します。全体的な傾向、部署ごとの傾向、年齢層ごとの傾向などを分析し、問題がある職場などを早期発見するように務めます。さらに、高評価の職場の要因も分析(具体的な取り組みも含め、他部署へ展開)する方法もあります。

■職場改善、研修(早期対応)
全体あるいは職場ごとの課題が明確になったら対策をプランニングします。どのようにアプローチするかは、関連部署、管理職、衛生委員会のメンバーなどとミーティングを行い決定するのが一般的です。

例:
・各種研修:メンタルヘルス研修、ハラスメント防止研修、エンゲージメント研修、コーチング研修
・業務改善:業務自体の見直し、業務分担と可視化、業務手順やアウトプット・承認方法等の見直し
・人事異動:仕事のミスマッチ、ハラスメント問題への対策
・組織体制:人員構成の見直し、勤務時間帯の見直し、ノー残業dayの実施
・人事制度:メンター制度、社内公募(FA)制度、自己申告制度の導入
・オフィス:室内推奨温度の変更、IT設備の刷新、オフィスレイアウトの改善

職場環境改善には、短期間で効果が実感できるものと、改善までに長期間かかるものがあります。後者については対策実施後も定期的にアンケート調査などを行い従業員からのフィードバックを得て、あまり改善されていないようであれば、対策方法を再検討していきます。

まとめ

職場環境改善にはいろいろな手法がありますが、まずは多くの従業員が最も不満に思っている内容のなかで、簡単に改善できる課題を速やかに解決することがポイントです。企業が職場改善に取り組む姿勢は、従業員に「大事にされている」という感覚を与えます。

メンタルヘルス対策だけでなく生産性向上にも繋がるとされている職場環境改善は、労働力人口の減少が深刻な日本では特に重要な取り組みであるといえます。

従業員が健康でいきいきと長く働き続けられる職場であるためにも、企業存続の維持・成長のためにも、労使ともにメリットのある活動と言えるでしょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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