メンタルヘルスの基本「セルフケア」を学ぶ

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メンタルヘルスマネジメントにおいては、問題が起きてからの対策よりも未然防止が重要であることは言うまでもありません。

厚生労働省の「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」には「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4種類がありますが、そのなかでもセルフケアは最も基本的な対策であり、心の健康に関する正しい知識を従業員自身に身につけてもらうことで、早期のケアを促したり、自発的な相談行動を増やしたりする効果があると言われています。

本記事では、セルフケアの重要性、セルフケアの種類や方法についてご紹介します。
関連記事:メンタルヘルス不調者を出さない職場づくり「ラインケア」の重要性

セルフケアとは?

セルフケアとは、従業員が自分自身で行うメンタルヘルス対策です。
メンタル不調の兆候は、初期は単純な肉体の疲労や行動、精神面の変化となって表れます。

いきなり重症になるケースは少なくほとんどの場合は軽い症状から出るため、メンタルヘルスの知識がないと本人すら気づかないことが多々あります。

メンタル不調の兆候を感じるのは従業員自身であり、従業員がセルフケアを自発的におこなうことで、メンタル不調が進行することを未然に防ぐことができます。深刻なメンタルヘルス不調者を出さないためにセルフケアは重要になります。

企業においてメンタルヘルスを浸透させていくためには、従業員自身がストレスに気づいて、セルフケアできる知識と対処方法を身につけ日常的に実施できるようにする必要があります。

そのために、企業が適切なメンタルヘルスに対する教育を実施して、個々の従業員が自分の心身に異変が起きたときに早期に察知し、自分自身で対策を行うことができるようにしなければなりません。

従業員がセルフケアで対処したいメンタル不調の初期症状にはどのようなものがあるでしょうか。管理職は、従業員の普段とは違う初期症状に目を配ることで、メンタル不調にいち早く気づくことができるようになります。

■メンタル不調の初期症状の一例

身体面:
肩こり、頭痛、だるさ、睡眠の問題(寝起きの悪さ、寝つきが悪いほか)、食事の問題(食欲不振、過食ほか)、発汗、依存傾向(アルコール、カフェイン、喫煙ほか)

精神面:
無気力感、集中力の欠如、ネガティブな感情(イライラ、不安、怒り)の増加自責的な考えほか

行動面:
遅刻や欠勤の増加、仕事におけるミスの増加、以前よりも人付き合いが悪くなる、攻撃的な言動の増加
※2週間~1カ月以上、同じような状態が続く場合は要注意とされています

セルフケアの方法を紹介

セルフケアにはいろいろな種類があります。セルフケアも義務として行うとそれ自体がストレスになりかねないため、自分の好むセルフケアを選んで行うことがポイントです。

近年は、職場近くのスポーツジムと提携したり、仕事中に卓球やビリヤードなどができる場を提供し、従業員がいつでも気分転換できるような仕組みをつくる企業も増えてきています。

セルフケアを従業員におこなってもらうには、メンタルヘルス教育の一環として、“適度な休息が仕事の生産性を上げるために有効”であることを周知することが大切です。

※新入社員向けのセルフケアについては下記のコラムが参考になります。
新入社員自身ができるセルフケアのポイント ~withコロナ、afterコロナにそなえて~

■職場内で行えるセルフケア例

1.呼吸法 深呼吸をすることで、緊張やストレスで固まった筋肉を緩めて体をリラックスさせる効果があります。
また、呼吸に集中することで、不安やイライラなどのネガティブ感情から注意をそらし、落ち着きを取り戻すことができます。下記の手順で試すとよいでしょう。
 ①椅子に深く腰掛けて、軽く背筋を伸ばして楽な体制をとりましょう。
 ②お腹に手を置いて、鼻から深くゆっくり息を吸い、口からゆっくり息を吐いて下さい。
 ③息を吸う事でお腹が膨らみ、息を吐いたときにお腹がへこんでいく様子を手で感じてください。
 ④②~③を複数回ゆっくり繰り返しましょう。

2.ストレッチ、適度な運動
長時間同じ姿勢を取り続けていると血流が悪くなり身体に負担がかかります。
手足を伸ばしたり身体をひねったりすることで筋肉のこりも多少とれ、気持ちがすっきりします。
座りっぱなしの仕事をしている人は、立ち上がるだけでも多少の効果があります。

3.笑う
「笑い」には血糖値の上昇を抑えたり、ストレスを軽減する効果があることが研究によってわかっています。
「作り笑い」でも効果はあります。職場でにっこり笑顔を心がけることはコミュニケーション上でも健康上でもプラスです。

(番外編)ポモドーロ・テクニック
25分の集中作業と5分休憩を4~5回くらい交互に行い、その後少し長めの休憩をとり、再度同じように作業をするテクニックです。疲れをためずに、短時間で集中して作業を行うことで、長時間仕事に集中し続けるよりも、集中力や注意力を向上させます。

このテクニックを繰り返すことで、集中できる時間が長くなると言われています。 業務効率向上の文脈で紹介されることが多いですが、休憩の際に前述した呼吸法やストレッチなどを行うとセルフケアとしても極めて有効なテクニックとなります。

※呼吸法については下記のコラムが参考になります。
メンタルヘルスと呼吸法 – 人事・労務ご担当者が知っておきたい呼吸のメカニズムと呼吸法 –

■日常生活のなかで行うセルフケア例

1.十分な休息、睡眠
睡眠不足は、疲労感や情緒不安定などストレスが増す原因となり、メンタル不調への近道となると言われています。布団の中で呼吸法を行い、心身ともにリラックスした状態になると、副交感神経が優位に働き、眠りやすくなります。

眠る直前に、パソコンやスマートフォンを触る、アルコールやカフェインが入った飲み物を飲む、激しい運動をする、といった行動は質の良い睡眠がとれない原因につながります。

関連記事:【健康経営と睡眠】睡眠の質は心身の健康や生産性に直結する


2.気分転換できるような活動
自分の趣味や好きな活動をすることは、日々のストレスから目をそらし、楽しい気分になるので、良い気分転換になります。スポーツやジムなどの運動、アロマテラピー、映画、カフェめぐり、ショッピング、カラオケなど普段からできるものを1つでもいいので見つけておきましょう。旅行やハイキング、温泉といったアクティビティもアクティブな方法としておすすめです。

3.周りに相談
シンプルですが、一人で抱え込まないということは非常に重要です。会社の同僚、先輩や上司だけではなく、プライベートの友人や家族、専門家など誰か相談できる人を見つけましょう。相談することで、自分の中で状況の整理ができたり、自分では考えつかなかった視点で物事をとらえるきっかけが生まれます。

4.マインドフルネス
マインドフルネスとは、過去や未来に注意が向いて、現在やるべき仕事が手につかない状態から、目の前のやるべき仕事への集中を取り戻すためのスキルです。マインドフルネスを実践することで、「集中力」「ストレス耐久」「作業記憶(ワーキングメモリー)」「寛容性」などの向上が見込まれます。

※マインドフルネスについては下記のコラムが参考になります。
【マインドフルネス】セルフケアからリーダーシップまで

メンタルヘルス対策におけるセルフケア教育の重要性

メンタルヘルス対策のなかでセルフケアは地味であり軽視されがちですが、従業員がメンタル不調の兆候に気づきセルフケアを行うことは、本人の心身の健康はもちろん、うつ病、自律神経失調症などの予防にもつながります。

従業員が心身ともに元気に働くことで企業全体が活性化し、生産性にもプラスです。人事総務部門は従業員に対して基本的なセルフケア教育を行い、セルフケアに関する情報を発信していくことが大切です。

■セルフケア教育の例

・ストレスとメンタルヘルスについての基礎知識
ストレスとは何か、ストレスの要因、ストレスの表れ方、セルフケアの重要性を学ぶ。

・ストレスの気づき方
メンタル不調初期の兆候を学び、自分自身の過去のストレス経験などから、ストレスを感じたときに出やすい兆候を知る。

・セルフケアの種類
日々の生活で行えるセルフケアや仕事中に簡単に実践できるセルフケアを学ぶ。

■ストレスチェックの実施

メンタルヘルス対策におけるセルフケアの重要性を従業員に理解してもらうきっかけとして、ストレスチェックがあります。ストレスチェックの結果は、自分自身のストレス状況がデータで可視化され、自身の現在の状態・課題を知ることができるため、セルフケアを意識するきっかけになります。

※ストレスチェックを活用したセルフケアについては下記のコラムが参考になります。
ストレスチェックを活用してセルフケア!実は身近にストレス解消法がある【ストレスチェック徹底活用コラム】

セルフケアのまとめ

ビジネスの現場でストレスを避けることは非常に難しいため、ある程度ストレスがかかることを前提に、対策となる知識やテクニックを身につけておく必要があります。ストレスへの対処法は、基本的にビジネスと同じです。問題が起きたら早めに原因を見つけ解決方法を探します。

そして、実行できそうな方法をまず試してみます。解決しない場合は次の案を試してみます。自分に合う方法を特定できたら次はそれを仕組み化することで、気負いなく続けることができるようになるでしょう。

もっとも大切なことは、自分の身体や心をいたわりメンテナンスしていくことが、企業にとってもプラスだと理解することです。毎日ストレスをケアすることで強い心と体を手に入れましょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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