健康経営の実践にはワークエンゲージメント対策が不可欠

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健康経営度調査でワークエンゲージメントの測定・評価が問われている

近年は、「健康経営度調査」を行う企業が増加しています。経済産業省の調査によると2015年度の493社に対して2020年度は2,523社と、約5倍の企業が調査に回答しています。健康経営度調査には2018年度から、「従業員や組織の活性度の確認」の設問が追加されています。

主な目的はこれまでの健康経営の実践が企業価値等の向上に寄与しているか、を効果検証するためです。これは、政府が主導するかたちでスタートした日本における健康経営の推進が、「健康経営の実現のために打ち出した施策が従業員1人1人や組織に浸透し、活性化、ひいては生産性向上・企業価値の向上等に活きたものとなっているか」を定量的に評価するステージに入っている、ということでしょう。

従業員が心身ともに健康で、心からやりがいを感じて仕事に取り組んでいる活性度の高い=ワークエンゲージメントが高い状態であってこそ、企業の生産性は高まります。

本記事では、健康経営とワークエンゲージメントの関連性を解説します。

ワークエンゲージメントとは

「ワークエンゲージメント」は、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。エンゲージメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」とシャウフェリらは、ワークエンゲージメントを定義しています。
(引用:島津明人 ワークエンゲージメントに注目した個人と組織の活性化 日職災医誌,63:205─209,2015)

健康経営の実現とワークエンゲージメントの関係性

近年は新型コロナウイルス感染症の拡大により、健康を意識する従業員は増えているでしょう。しかし、自社が健康経営銘柄企業であること、健康経営優良法人(ホワイト500)を取得している会社、ということを知っている従業員は社内にどれだけいるでしょうか?

健康経営は、まず経営層の「健康宣言」が発信されることでスタートを切りますが、単に概念を唱えるだけで浸透していくわけではありません。本当に「健康経営企業」といえるためには、『従業員1人1人、またその家族も、自社が健康経営を実践し従業員をバックアップしていることを知り、効果を実感し、取り組みが企業文化として現れている状態』を目指す必要があるでしょう。

とはいえ、健康経営を具現化するためには「人事制度や施策などの会社側からの仕掛け・土台づくり」と「従業員や組織へ、その取り組みが社内全体に文化として浸透する」の両輪の達成が必要であり、いずれも成果としてあらわれるまで時間がかかるため、中長期的な取り組みが求められます。

ワークエンゲージメントを高めるメリット

ワークエンゲージメントを高めると、個人や組織にどのようなメリットがあるのでしょうか。

―仕事に誇りややりがいを感じ「熱意」にあふれている
―仕事に熱心に取り組み「没頭」している
―仕事から「活力」を得て活き活きしている

冒頭にも述べたように、この三つの要因がそろっている状態を「ワークエンゲージメントの高い状態」と定義します。ワークエンゲージメントの高い人材は活力にあふれ、積極的に仕事にかかわるという特徴があります。先行研究からの報告によると、以下のようなメリットがあることが知られています。

―個人へのメリット
 ・心理的苦痛や身体的な愁訴が少ない

―仕事や組織へのメリット
 ・職務満足感が高い、仕事の工夫を自ら生み出し、生産性が高い
 ・自己啓発学習への動機づけや創造性が高い
 ・役割行動や役割以外の行動を積極的に行う
 ・離職や転職の意思が低い
 ・部下への適切なリーダーシップ行動が多い

具体的な事例では、ホテルやレストラン従業員でワークエンゲージメントが高いと、顧客満足度が高まり、リピーター客の集客につながることも示されています。「ワークエンゲージメントを高める」ことは、従業員の健康だけではなく結果として組織の活性化、ひいては企業のイメージ向上、業績向上、といった健康経営の理想郷の具現化につながる、非常に有益なキーワードといえます。

健康経営度調査からみたワークエンゲージメントの位置づけ

経済産業省の健康経営のフレームワーク(下図:「健康経営銘柄2022選定及び健康経営優良法人2022(大規模法人部門)認定要件)」)では、「3.施策・制度実行」のカテゴリ内に「健康経営の実践に向けた土台づくり」があり、具体的には、「ヘルスリテラシーの向上」「ワークライフバランスの推進」「職場の活性化」「病気の治療と仕事の両立支援」という項目に分かれています。

どれも、人事総務担当部署が主導となって動く「人事教育」「人事制度」「就業規則」「人事評価」「人事イベント」「福利厚生」などの従業員に対して打ち出す制度・施策に関連する項目であり、これらを実行することでワークエンゲージメントの向上を目指すことができます。

当初の健康経営度調査では、それらの制度・施策を「実践していればOK」であったのが、2018年度からは、「従業員のために打ち出した施策が本当に従業員や組織のためになっているか、それにより組織は活性化したかの確認をしているか」まで問われるようになりました。

この「従業員や組織の活性化の確認」に関しては、「参加率」「達成率」「参加者のアンケート調査」「健康度やストレス状況、生活習慣の改善状況への定量的な効果」「医療費への費用対効果」「従業員の生産性等、企業業績への影響」という内容になっています。

これまで、従業員満足度調査などを実施されてきた企業も少なくはないはずですので、従業員満足度調査などに「健康経営に関する施策の反応」を問う設問も追加しておくと、今後の健康経営度調査の回答時に困ることはなくなるのではないでしょうか。

健康経営に効果のある制度・仕掛けづくりの方法が分からない、その施策がワークエンゲージメントにまで達成できるかは自信がない・・・専門家に頼ることも必要です!

そうはいっても、昨今は働き方改革にまつわる制度改革・仕掛けづくりなどの会社の仕組みの大変革時期でもあるなか、人事総務部門のリソースは限られています。降ってわいたように発生した新型コロナウイルス感染症の対策も、「withコロナ」という言葉があるとおり、おそらく今後、長期間継続しなければならないでしょう。

上層部からの「戦略的かつ効果の上がる健康経営」の実行のプレッシャーも受けながら、「コロナ感染予防対策も含んだ従業員の健康維持のための対策」「従業員や組織を活性化するための健康経営の仕掛けづくり」を実践するためには、かなりの専門知識と実績が必要です。

健康経営が盛り上がっている昨今、健康経営支援サービスを提供している業者は多く存在しています。思い切って、専門家がいる専門機関に相談してみることが健康経営の実現への近道ともいえます。きっと人事総務ご担当者様の心強い良きパートナーとなってくれることでしょう。

2021年度の調査は2021年8月からスタートします。詳細は経済産業省HPをご覧ください。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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